よく“ハンコ屋さんも大変だね”って言われるけど、全然そんなことないお話
はじめに
「最近、ハンコ屋さんも大変だね」
そう言われるたびに、なんだか少し笑ってしまいます。
心配してくれているのは分かります。
でも、実際にはそんなことないんです。
むしろ毎日が面白くて仕方ない。
誰かの人生の節目に関われるこの仕事が、
こんなにも尊く、奥深く、温かいものだとは──
昔の自分でも想像していませんでした。
私の原点と、印鑑業への想い
大学を卒業後、私は広告会社に就職しました。
主に営業として働き、広告やデザインの世界で多くを学びました。
しかし、忙しく働く中で、
ふと「自分の地元に恩返しがしたい」と思うようになったんです。
地元・群馬県みどり市に戻り、家業である創業100年の石原印房を継ぎました。
そして2015年、法人化。
株式会社柏葉堂として、新しいスタートを切りました。
楽天市場での挑戦と葛藤
当時はネット全盛期。
楽天市場に出店し、イラスト入り印鑑などを企画。
「印鑑にもデザインを」という発想で、ある程度のシェアを取ることができました。
正直、売上は伸び、業界内でも一定の成功を収めました。
でも、次第に自問自答するようになったんです。
「印鑑の安売り競争は、果たして印鑑業界の未来のためになっているのか?」
“ハンコ”という文化に誇りを持つ専門店として、
安く、早く、数を売るだけの仕事に疑問を感じ始めました。
対面販売への原点回帰
考え抜いた末に出した答えは、
「人と人が向き合う販売に戻ろう」というものでした。
オンライン販売をやめることで売上は下がるかもしれない。
市場規模も小さくなるかもしれない。
それでも、“お客様の顔を見て印鑑を渡したい”という気持ちは変わらなかった。
そして2016年12月──
ご縁があり、さいたま市浦和区にはん次郎浦和店をオープン。
店長として現場に立ち、日々お客様と向き合う毎日が始まりました。
社訓:「一生使える印をお渡しする」
株式会社柏葉堂には、ひとつの社訓があります。
「一生使える印をお渡しする」
これは、創業当時から変わらない想い。
お客様に“その人の人生を刻む印”をお渡しする以上、
「これでいい」ではなく「これがいい」と胸を張って言えるものを作る。
その信念を、今も大切にしています。
「大変そう」と言われる理由は、きっとニュースのせい
ここ数年、「脱ハンコ」「電子署名」なんて言葉が話題になりました。
でも現場にいると、それが単なるイメージだと分かります。
印鑑は、単なる道具ではありません。
それは“人生の区切り”に押される「印(しるし)」。
その瞬間に立ち会うのが、私たちの仕事です。
結婚、就職、独立、相続──
人の人生の節目には、必ず印があります。
その節目を共に祝えるこの仕事を、
「大変」とは言えません。
お金では買えないやりがい
ある日、お母さまと娘さんがご来店されました。
「娘が結婚するので、記念に実印を作ってあげたいんです。」
新しい名字を刻んだ印鑑を手にした娘さんが、
ほんの少し涙ぐんで、笑いました。
「これからも大事に使います。」
その一言に、この仕事のすべてが詰まっています。
印鑑は、“名前を刻む仕事”。
そして同時に、“想いを刻む仕事”。
一本一本に願いを込めて仕上げる──
それが、ハンコ屋の本当の楽しさです。
「ハンコ離れ」なんて言葉の裏側
確かに、“とりあえず印鑑を作る人”は減りました。
でも今は、“ちゃんとした印鑑を作りたい人”が増えています。
ネットで安く買える時代だからこそ、
「信頼できる店で」「丁寧に作ってもらいたい」
という声が戻ってきています。
はん次郎でも、口コミや紹介でのご来店が本当に多くなりました。
「思っていたより立派」「早くて助かった」「説明が丁寧だった」
そんな声を毎日のようにいただきます。
“モノ”としてではなく、“誰が作ったか”を大切にする時代へ。
印鑑の世界は、静かに新しいステージに入っています。
職人仕事は、時代が変わっても変わらない
印鑑の仕事は地味に見えるかもしれません。
でも、印面のわずか1ミリの違いに魂を込めるこの世界は、
書道にも似て、彫刻にも似た、職人の世界です。
「手彫り」や「書体」にこだわるのは、
伝統を守るためではなく、“人の証を預かる責任”のため。
印鑑は“その人自身”を象徴するもの。
だから、誰が作ったかが大事であり、
そこに心を込める意味があるのです。
「大変そう」と言われたときの本音
開業した頃は、その言葉に少しだけ引っかかりました。
でも今は笑って言えます。
「いや、大変どころか、むしろ楽しいですよ。」
印鑑の仕事は、毎日違うドラマがあります。
朝は法人印の相談、昼は新婚さんのペア印、
夕方にはお孫さんへのプレゼント印。
その一つひとつに物語があって、想いがあります。
“人の人生”にこれだけ深く関われる仕事なんて、
そうそうないんです。
これからのハンコ屋は、もっと自由でいい
今の時代、ハンコ屋の在り方は一つじゃありません。
伝統を守るだけでなく、伝え方を変える。
それが、令和の職人だと思っています。
SNSで情報を発信し、
Googleビジネスやブログで“思い”を伝える。
それも立派な“現代の手彫り”だと感じています。
お客様の人生に寄り添い、
誇りを持って「一生使える印をお渡しする」。
それが、私の使命です。
結びに
「ハンコ屋さんも大変だね」
そう言われたときは、笑ってこう答えます。
「いえ、うちはけっこう幸せですよ。」
この一言に、すべてが詰まっています。
この仕事が好きで、誇りがあって、
そして何より、関わるすべての人に感謝しているということ。


